自動車、ロボット、携帯、飛行機、建設資材、重機…などのさまざまな機械で使用される金属材料を今回の記事ではシリーズで解説します。金属材料とは言っても、その範囲は鉄、ステンレス、アルミ、プラスチック、セラミック…など、様々で覚えるのは大変です。1回目の記事として、機械と言えばの鉄鋼材料を紹介します。何となく、知っていることもこの記事を見れば、きっと新しい発見があるのではないでしょうか?
1. 機械材料とは
機械材料は大きく「金属」と「非金属」に分類することができ、さらに「金属」は「鉄」と「非鉄」に分けることができます。下の図のように、金属とは皆さんがイメージしている通りで、鉄とはステンレスを含む鉄鋼で、非金属はプラスチックやゴム、ガラスなどを示しています。非鉄は鉄ではない金属なので、アルミ、銅、鉛、亜鉛、…などですね。
これらには材料名があり、そのほとんどにJISなどで規格が定められていて、それらの規格にはそれぞれ材料物性を表した以下のような項目(一例)があります。使用する機械材料はこれらの評価項目を考慮して選定することが一般的であり、機械材料はこのような項目に満たすように製造されます。
引張強度:引張力に対する最大強度 圧縮強度:圧縮力に対する最大強度 曲げ強度:曲げ荷重に対して、亀裂や破損が生じる力、応力 疲労強度:材料強度以下の繰り返し応力を受け続けても破壊しない力 弾性率 :応力によってひずみ(変形)が生じる比例定数 耐摩耗性:表面硬さが高く、摩擦係数が小さいことで向上する摩耗に対する耐性 硬さ :材料の硬さ 耐食 :腐食、錆への耐性 耐熱 :高温、低温に対しての耐性 熱伝導率:熱を伝える度合い 電気伝導率:電気を伝える度合い 比重 :単位体積あたりの重さ
2.鋼板
まずは鉄について解説します。鉄と聞くと一番思いつくのが鉄板と思います。鉄板は機械材料では鋼板と呼ばれます。鋼板は溶鉱炉からできた鉄の塊をある厚みにするために、切断したり、曲げたり、伸ばしたりしたものです。さらに最終的に圧延という工程で最終的な厚みに仕上げることになりますが、この工程は加熱させて圧延する熱間圧延と常温で圧延する冷間圧延に大別できます。熱間圧延材はSPHC SPHD SPHE 冷間圧延材はSPCC SPCD SPCEがあります。それぞれの意味としては以下の通りです。
なお、最後の末尾の…Cは一般鋼板であるのに対して、…Dはリムド鋼を使用した絞り加工用材料 …Eはギルド鋼を使用した深絞り加工用材料として用いられます。絞り加工とは鋼板に金型を押し付け継ぎ目のない丸や四角のカップ形状に成型するプレス加工の一種です。特に径に対して深いカップ形状の加工を深絞りと呼ばれています。この深絞りは深いカップであればあるほど成型時に亀裂が入ったりと加工難易度が高い為、材料選定も重要になってくるようですね。
金属材料には製造上、非金属の介在物が少なからず含有されることがあり、この介在物により材料の強度や伸びが変わってくるため、介在物量を調整し、規制しています。介在物の中には酸素という項目もあり酸素の含有量によっても強度が変化します。ギルド鋼とはこの酸素を減らすために脱酸という工程を加えたものでリムド鋼とはこの脱酸をしていないものになります。当然、酸素含有量が少ないギルド鋼の方が難易度の高い絞りに向いていますね。
3.鋼管
鉄鋼材としてよく流通しているのは、鋼板以外にも棒鋼や鋼管があります。棒鋼は主に熱間圧延、押出を繰り返し行ったのち、熱処理(焼鈍)をした後、冷間圧延やピーリングと呼ばれる削り加工を行い寸法を調整します。この時、圧延工程で筒状に圧延をすると継ぎ目のない鋼管(シームレスパイプ)ができます。そのため鋼管も棒鋼も同じような工程を経て、市場に出回る材料となります。ただし、熱感圧延でも冷間圧延でも材料に大きなストレスが加わるため、1回の圧延量によっては製造時に割れ、ひび(クラック)が軸方向に発生することがあります。特にシームレスパイプは内外に大きなストレスが加わるためクラックが発生するリスクが高いです。そのため超音波探傷機や渦流探傷機などを使用して材料に割れが生じていないかを検査していることが多いです。
C型の円筒形状に成型した材料を突き合わせ、その合せ面を溶接することで継ぎ目のある鋼管にするものもあります。鋼管としてはこの継ぎ目のあるものが安価でよく流通しているようですが、選定する場合は強度の確認が必要で高い圧力が加わるような環境下で使用する場合は避けた方が良いようです。
4.鋳鉄
皆さんもどこかで「鋳物」というものを聞いたことがあると思います。鋳型と呼ばれる型に溶解した金属を流し込み、冷え固まったもの取り出す製法で作られた鉄鋼を鋳鉄としています。鋳鉄にはねずみ鋳鉄(FC)と球状黒鉛鋳鉄(FCD)が一般的です。ねずみ鋳鉄はJISでは[引張強度]と[硬さ]のみ規定されているだけで、耐摩耗性、耐振動性に強いため、選定の第一候補としてよく挙げられます。球状黒鉛鋳鉄はねずみ鋳鉄にはない[伸び]がJISで定められいるため、靭性はあるが、耐衝撃性は劣る特性があります。鋳鉄の最大の特徴としては鋳型で成型するため、複雑な形状を初工程の材料の段階で大まかに作り込むことができることにあります。そのため鋳鉄を使用することで、切削などの2次加工を大幅に省くことができるためコストダウンが期待できます。しかし、一般的に鋳型は樹脂成型の金型のような精密な構造ではなく、砂、石、樹脂などを使用して作られるため、精密な寸法精度には不向きです。また表面粗さも悪くゴツゴツとした仕上がり面となります。なお、鋳鉄の材料形状は離型するために抜き勾配やR形状など、製法上の制限もあるため、よく考えて設計する必要があります。
5.ステンレス
耐食性(さび)を向上するために鉄にクロム、ニッケルを含有させたもので、クロム含有率が10.5%以上のものをステンレスといいます。一般的なステンレスはさびないという印象があると思いますが、実はステンレスには錆やすい「クロム系」と錆びにくい「クロム・ニッケル径」に大別されるんです。錆るステンレスなんて意味がないと思うかもしれませんが、どちらも錆びないわけではないのですが、炭素鋼と呼ばれる鉄と比較するとどちらも圧倒的に錆にくいです。その中でも「クロム・ニッケル径」はとても錆にくいので、キッチンのシンクなどに使われいます。
ではこの二つ何がちがうかと言うと、「クロム系」は錆やすい代わりに焼入れによって硬度が高くなるんです。鋼種によってHRC55以上と焼入れ炭素鋼と匹敵するぐらいの硬さになります。主にこれら「クロム系」はSUS440 SUS410 SUS403など、SUS4の鋼種が多く「SUS4系」なんて言われます。 一方、「クロム・ニッケル径」はSUS304 SUS316 SUS309など、SUS3の鋼種が多く「SUS3系」の錆びないステンレスと呼ばれることがあります。このステンレスは柔らかいため、絞り加工などが適しており、さらに磁性がないため磁石にくっつくことがないです。ステンレスで鋼種を調べる時は磁石でくっつくものは「錆やすいステンレス 」磁石につかないものは「錆にくいステンレス 」と思ってください。
6.まとめ
・機械材料は金属と非金属に分類され、金属は鉄と非鉄に分類される。 ・ほとんどの機械材料は引張、圧縮、硬さ…などのさまざまな評価項目が規格化されている。 ・鋼板は熱間圧延、冷間圧延に分類され、さらに絞り加工難易度に合わせて材種を選定できる。 ・鋼管は継ぎ目のないパイプ、継ぎ目のあるパイプがある。継ぎ目のあるパイプを使用する場合は使用環境に注意が必要。 ・鋳鉄はおおまかな形状を鋳型で成型できるが、精度が精密でない、面粗さが粗いなどのデメリットもある。 ・さびやすいが焼入れによって硬くなるSUS4系、さびにくい、柔かい、磁石につかないSUS3系に大別される。
以上です。
コメント