品質管理011 ~精密測定温度~

品質管理
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ウーパー
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夏の工場は熱く、冬の工場は寒いです。こんな環境で精密測定はできるんでしょうか?
温度が管理された部屋でしか、測定できません。

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そんなことはないよ。どんな部屋でも精密測定はできるよ。なので、今日も熱いけど頑張って測定しましょう

精密測定の定義はさまざまで、ここでは±1~2μ程度の測定誤差を含めた測定としましょう。つまり一般的な機械加工ではめあい公差などを考慮した精密な部類な測定とでもいいましょうか。
測定には大きく「絶対測定」「相対測定(比較測定とも言う)」に分けられます。我々が目にする測定器のほとんどは絶対測定で行われていますが、測定範囲(測定ストローク)によっては相対測定とも言えなくもないんです。この相対測定であれば、極寒の雪山でも、灼熱の砂漠でも、どんな温度でも精密測定は可能なのです。
「はあ?よくわからないけど、、、」
もう少し、わかり易く説明しますね。

1.ノギスの測定は環境温度の影響を大きく受ける

ノギス使用開始前、ノギスの測定部を閉じて、ゼロリセットしてから使用しますね。ノギスサイズによっては100、500、1000mmと測定できるストローク量が違います。このストローク量が大きくなればなるほど、熱による影響度合いが大きくなります。以前の記事で解説したように、鉄でも樹脂でもすべての素材には線膨張係数というものが決められています。線膨張係数とは1℃あたりの寸法変化量を表していますので、温度があがれば上がるほど寸法は膨張します。

機械材料004 ~機械材料の性質~
それら機械材料にはいろいろな性質があり、強度(応力ひずみ線図)、熱伝導率や電気伝導率、温度変化による寸法変化量(線膨張係数)、加工のしやすさ…など いろいろなものがありますが、材料を選定するためにはこれらの性質を前もって知っておかなければなりません。そのため材料の性質は設計する上でも重要な情報源になるんです。

鉄を例として挙げると、100mmは1℃上がると0.001mm膨張します。つまり1000mmは1℃上がると0.010mm膨張することにもなります。今回、例に挙げたノギスではノギス自身の全長が100mm、1000mmなので1℃上昇する度に0.001、0.010mm膨張します。そのため、1℃上昇すると測定ストロークも100mmであれば、100.001、1000mmであれば100.010となり、実際の測定ストローク量よりも長くなってしまいます。なおノギスなど測定機器のほとんどは標準温度(20℃)環境下で使用することを前提として作られているため、20℃の時にそれぞれの長さになるようになっています。つまり、ノギスを例とすると、、、

20℃ → 100.000(+00μm)  1000.000(+000μm)
30℃ → 100.010(+10μm)  1000.100(+100μm)
40℃ → 100.020(+20μm)  1000.200(+200μm)
50℃ → 100.030(+30μm)  1000.300(+300μm)
60℃ → 100.040(+40μm)  1000.400(+400μm)

といった感じになり、各温度環境下での測定結果には差が生じます。ですが、実際は測定物も似たように膨張するので実際の測定差はもっと小さくなりますが、理論上はこのようになります。

2.マイクロメータは環境温度の影響を受け難い?

一方、マイクロメータを例として挙げると、マイクロメータの測定可能範囲はノギスとは違い、0~25mmとか75~100mmなど限定的です。そのため、ほとんどのマイクロメータの測定ストロークは25~50mm程度です。例えば、測定範囲が0~25mmと975~1000mmのマイクロメータがあるとすると、どちらのマイクロメータも測定ストロークは25mmです。また測定開始時、0~25mmマイクロメータは測定面同士をつき合わせ、[0]として基点を合わせますが、975~1000mmマイクロメータは[975.000mm]のゲージで基点を合わせます。この場合、1℃上がると膨張する寸法量は100mmで0.001なので、ストローク量が25mmであるとその変化量は0.25μmになりますね。勘違いしてはいけないのは、975~1000mmマイクロメータは熱によって膨張しますが、同じように[975.000mm]ゲージも同様に膨張するため、975mmの区間はマイクロメータとゲージ双方が同じように熱膨張するため、測定精度に影響を与えません。つまり、0~25mmのマイクロメータも975~1000mmマイクロメータも基点位置からのストローク量は同じ25mmなので1℃当たりの温度変化は同じなんです。そのため、マイクロメータでは、、、

20℃ → 25.0000(+0.0μm)
30℃ → 25.0025(+2.5μm)
40℃ → 25.0050(+5.0μm)
50℃ → 25.0075(+7.5μm)
60℃ → 25.0100(+10.0μm)

となり、ノギスもマイクロメータも同じような測定器ですが、温度による寸法変化には大きな差が生まれます。このように基点から測定位置(ストローク)が長くなればなるほど、温度の影響を受けやすく、短い程影響を受け難いのです。

3.電車のレールのすきまは温度変化を考慮している?

すこしイメージしやすいように、電車の線路(レール)で例えると、レールとレールの間にはすきまがわざと設けてあります。これは気温が高くなり、レールが熱く、膨張するとレールとレールが干渉し、レールが曲がるためにレールとの継ぎ目にはわざとすきまを設けています。でもこのすきまは際限なく大きくする訳には行かないため、このすきまの量はレール一本当たりの長さによって決めています。つまり、長いレールでは熱膨張寸法が大きいため、すきまを大きくする必要がありますが、短いレールであるとすきまは小さくても良いのです。

4.相対測定(ダイヤルゲージ)の測定は環境温度の影響を受けない

では始めの「絶対測定」と「相対測定」の話に戻りましょう。もうなんとなくわかると思いますが、ノギスが「絶対測定」で、マイクロメータが「相対測定」だと理解しそうですが、実際には、マイクロメータは測定ストロークが25mmもあるので、一般的には「絶対測定」の部類に入ります。では「相対測定」とは何か?ですがダイヤルゲージのような測定機器を指します。ダイヤルゲージは測定物とほぼ同じ寸法のブロックゲージやピンゲージなどで基点調整を行うため、測定ストロークが限りなく小さくできます。ダイヤルゲージのストロークは0.1~1.0mm程度なので、熱膨張の影響を限りなく小さくすることができます。

20℃ → 0.10000(+0.0μm) ~ 1.0000(+0.0μm)
30℃ → 0.10001(+0.1μm) ~ 1.0010(+1.0μm)
40℃ → 0.10002(+0.2μm) ~ 1.0020(+2.0μm)
50℃ → 0.10003(+0.3μm) ~ 1.0030(+3.0μm)
60℃ → 0.10004(+0.4μm) ~ 1.0040(+4.0μm)


さらにダイヤルゲージは基点ゲージからのストローク量(基準ゲージとの差)になるため、上記の値よりもさらに小さくなります。このように基点位置からのストローク量によって、環境温度の影響を受ける度合いが大きくかわります。

5.必ずしも必要ではない? 20±2℃の測定環境作りは間違った理解から生まれている。

過去、私は精密測定をするには20℃±2℃でなければならないと言われ、どんな測定でも20℃環境の測定室で測定をさせられた記憶があります。そのため、測定温度環境に関して、なんとなく20℃でなければならないという間違った理解が蔓延しています。ここまで呼んでいただけた人は理解できるとおもいますが、ノギスのような精密測定ができない測定器に対しても、熱膨張の影響を受けにくい相対測定は、20℃環境は必要ありませんね。ただし、上述したように20℃である必要はないのですが、精密測定をする際に注意しなければならないのは「基点ゲージと測定物が同じ温度であるか?」です。φ10のピンゲージで基点合せをした場合とφ100のピンゲージで基点合せをした場合で比較すると、ゲージと測定物との温度差が10℃あるとφ10では0.001、φ100では0.010違います。そのため精密測定をするためには温度ならしが重要なポイントになります。

6.精密測定における温度ならしの方法とは?

機械加工したばかりの出来立てホヤホヤの測定物とゲージには温度差があるため、加工中の精密測定には加工物とゲージには温度ならしが必要で、よく見る手法としてはゲージを液体(加工液)に浸し、加工直後の加工物も同様にその液体に浸し、1~2分後に測定をするものです。またゲージや加工物の形状にも注意が必要で、中空の加工物に対し、中実の加工物の方が温度が均一になるまでに時間を要します。そのため、温度ならしまでの時間は形状によって、考える必要があり、一般的には室温で1~2時間程度あれば加工物とゲージの温度は均一になります。もし、加工物の精度検査をするのであれば、ゲージと加工物を同じ部屋で1~2時間放置してから、取り掛かるのがよいですね。このように考えると、測定環境温度を20℃にしなければならない要件は限定的で「測定機器の校正」「超精密(サブミクロン)測定」くらいしか必要ないんです。それよりも、重要なのは測定環境の温度変化を小さくすることです。始業時、気温が下がった状態で測定を開始し、徐々に温度が上昇すると、肉厚のゲージと肉薄の測定物の温度差が生じ、測定精度が狂います。またゲージが室内の壁際の床付近に設置している場合なども、測定物との温度が均一になりにくいです。なので、20℃でなくてもよいのですがエアコンなどで室内の温度は一定に保つことが重要なのです。

7.まとめ

・ノギスなどの絶対測定は環境温度の変化をうけやすい

・測定ストロークが長くなればなるほど、環境温度の影響が大きい

・相対測定はゲージと加工物との温度差がなければ、どんな環境温度下でも精密測定が可能

・20℃環境よりも測定環境温度を一定に保つことの方が重要。(20℃である必要はない)

・温度ならしは室温では1~2時間程度は必要。

以上です。

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